はじめに

▶︎ガイドライン

 現在、代理出産治療の新規相談は受け付けておりませんが、引き続きみなさんのご意見、国に対する要望、当事者の声を受け付けております。

代理出産について

はじまり

体外受精施設を建築中の某日、一人の女性が訪れたのです。その方はロキタンスキー症候群の方で、その方の妊娠不可能なことを承知の上でプロポーズされ、その彼への熱い思いからの代理出産に関する打診でした。
その時、このような生殖障碍者に対し何とかしなければとの思いが、1996年8月体外受精施設を開設するや否や爆発。一般的体外受精と共に、代理出産を含む生殖障碍者への体外受精をスタートすることになったのです。最初に訪れた女性はその後来院しませんでしたが、暫くして受診された同じくロキタンスキー症候群の方に対し、姉が代理母を申し出て来たケースが当院最初の代理出産治療例となりました。

その後・休止

先天的子宮欠損は当然のこと、後天的子宮欠損例において卵巣機能は現存、乃至は卵巣や卵子が保存されており、猶且つ、御夫妻が実子を望み、そのことに対し全面的に協力しボランティア行為の下で代理出産される代理母となられる方がおられる場合を代理出産適応例としています。
当院での代理出産既往例は、姉妹義姉妹間が10例で4例から6人の子どもが誕生。しかし、子育て中の代理母を取り巻く環境は、代理出産が公認されていない現状下ではマイナートラブルが生じ易く、結局母親から代理母を申し出て来たケースに続く母娘間を条件で代理出産を続行、11例に施行し10例から10人の子どもが誕生することとなりました。しかし、当たり前の如く行われている妊娠・出産には様々なトラブルが付きもので、最悪の場合は死に至る(1万人に1人弱の頻度)こともあるため、国の検討が始まった頃の2014年1月の出産を最後に、当院における代理出産は休止状態にあります。

代理出産に関する今後の方針

2014年以来、国内での代理出産は行われておりませんが、問い合わせが来ていることと、国外で行われる代理出産が高額で取り引きされたり、様々な問題を惹き起こしたり、最近は適応外と考えられるケースが美談として扱われたりと、日本人として恥ずかしい現状を目の当たりにしながら手をこまねいているのが現状。そして何よりも、生殖障碍者がなおざりにされ続けている状態を、日本の代理出産の口火を切った施設として、最早看過できない状況下にあります。

もし代理出産を再開するならば

代理出産に関する過去の経験を踏まえ、以下のことを厳守する必要あり
(1)あくまでもボランティア精神の下で行う
(2)金銭の授受は経費の範囲以内
(3)国としての代理出産に関する体制が構築されていない現在においては、母娘間での代理出産が最も相応しい間柄と考える。

①その利点は
イ)母娘間や父娘間、そしてそれ等を取り巻く人々との意思の疎通が成り立ち易い。
ロ)代理母を姉妹間や友人間等の妊娠可能年齢の女性とする場合には、関係する夫婦間での妊娠をコントロールする必要があるが、母娘間では代理母のほとんどが閉経後か閉経前であっても、合併妊娠の可能性は考えにくい。

②その問題点と対策
イ)代理母としての条件としては、全身の人間ドックで全く異常が無いことは当然であるが、娘の母親が妊娠することは、高齢妊娠・出産となり、様々な危険性を十分承知置く必要がある。
ロ)代理母に子宮筋腫、子宮癌、乳癌等の合併が考えられる為、それ等のチェックと未然の対応を要する。
ハ)代理母の妊娠・出産における不慮の事故への対策、特に保険体制
ニ)異常が起き易い代理母への厳重チェックの為、妊娠7ヶ月頃より病院附属施設における母と娘の共同生活と毎日の代理母と児の健康チェック。そうすることは、依頼母である娘の妊娠・出産を自分のこととして自覚を深めることができる。
ホ)依頼母の娘は、本来なら母乳を与えられないわけである。しかし、代理母が妊娠5ヶ月頃になった頃から卵胞・黄体ホルモン投与と、7ヶ月頃からのスルピリド(ドグマチール)等の血中プロラクチン上昇作用を応用した投与により、依頼母が少しでも母乳哺育を可能にすることができる。

※以上ですが、以後、今までの「ガイドライン」と「心得」について提示し、再開への含みを持たせていただきます。

取り組みと歩み

 現在、代理出産治療の新規相談は受け付けておりませんが、引き続きみなさんのご意見、国に対する要望、当事者の声を受け付けております。

取り組みと歩み

 日本には、代理出産を禁止する法律はありません。ただし、日本産科婦人科学会(日産婦)は1983年、「体外受精の実施は夫婦に限り、受精した卵子はそれを採取した女性に戻す」という会告(規則)を定めました。これにより、非配偶者体外受精と同じく代理出産もまた、日本産科婦人科学会においておこなえないこととなりました。

 しかし海外では、代理出産を法律で許可している国、法律はないが許容している国があります。そのため、海外に渡って代理出産で子どもを得た夫婦も数多くおり、その数は既に100組を超えるとも言われています。日本では認めず、一方では海外に依存するという現状を生んでいるのです。

 そうしたなか当病院では、1995年にロキタンスキー症候群(生まれつき子宮がない疾患・遺伝に関係なく4~5,000人に1人の割合で生まれる)の女性患者さんと出会ったことをきっかけに、代理出産の実施を考えるようになりました。翌1996年に不妊治療体制をスタートしたのを機に、ガイドラインを整えて取り組み始め、そして2001年、子宮摘出をした姉夫婦のために妹が代理母となり出産したケースを公表しました(日本初)。(2006年より、代理母は依頼母の実母に限っています。)

 日産婦は2003年、あらためて「代理出産禁止」の会告を出して禁止しました。また、日本学術会議の生殖補助医療の在り方検討委員会(2006年12月~2008年3月開催)は、2008年4月に厚生労働大臣・法務大臣に提出した報告書で、代理出産を「原則禁止とすべき」としました。

 さらに、2009年2月28日には、日産婦より当病院に対し、代理出産実施に関する厳重注意処分が届いています。
 しかし、現実には代理出産を望んでいる人はおり、今後も海外に活路を求める人は増え続けると思います。

 このほか、生まれてくる子の立場や法的地位を守るため、民法改正なども必要と考えます。現行法において、依頼夫婦の子であるとの解釈は可能であるという話もありますが、現状としては判例において、子どもの母は「産んだ女性」とされ(1962年最高裁判例)、父親は「その女性の夫」(民法)とされているため、向井亜紀さん・高田延彦さん夫妻がアメリカで代理出産により双子を得たケースでは、出生届けが受理されないという事態が起きました。

当院の実施状況

 代理出産に関する国の法律はないため、当病院では代理出産に関する独自のガイドラインを設けて実施してきました。
 当病院ではこれまでに21例について代理出産を試み、14例出産16人誕生(うち実母による代理出産では、11例中10例出産10人誕生)が誕生しています(2014年3月末現在)。



 代理出産には下記の方法があります。うち当病院では当面「1-A」のみを実施してきました。そのほかの方法は今後の課題と考えています。

1.体外受精による代理出産
1-A.依頼夫婦の受精卵を使った代理出産
 依頼夫婦の精子と卵子を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性(代理母)の子宮に移植して子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との遺伝的つながりは保たれる。

1-B.第三者の精子または卵子を使った代理出産
 依頼夫婦の精子または卵子を、第三者の卵子(代理母とは異なる女性の卵子)または精子と体外受精させて受精卵をつくり、それを第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫婦どちらかにはあることになる。

1-C.第三者の受精卵を使った代理出産
 精子も卵子も第三者のものを体外受精させて受精卵をつくり、それをさらに別の第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦や代理母と、生まれた子との間に遺伝的つながりはない。

2.人工授精による代理出産
 歴史的には最も早くからおこなわれてきた代理出産。依頼夫婦の夫の精液を、第三者の女性(代理母)の子宮に注入(人工授精)して、子どもを得る方法。この場合、子どもの遺伝上の母親は代理母となり、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫のみが持つ。


 ガイドラインではまず、前述の「1-A」のみ実施することとし、対象者は「婚姻関係にある夫婦で、妻が子宮が先天的もしくは後天的にない45歳までの場合」と限っています。45歳としたのは、通常でも女性が45歳以上の場合の妊娠は皆無に近く、出産したとしても子どもが成人になるまでに夫婦が養育できるか体力的・経済的にもリスクが高いと考えるためです。

 代理母については、当面は「依頼妻の実母に限り、原則として60歳前後までの方」としています(代理母の健康状態により年齢は多少の増減あり。法整備や補償制度のない現状において、代理母を実母とするのが最もトラブルやストレス等が少ないとの考えから)

 生まれた子については、現行民法などへの対応上、いったん代理母の子として出生届けを出し、後に依頼夫婦の子として養子縁組をすることにしています。
 ただし最近のケースでは、「普通養子縁組」ではなく「特別養子縁組」が裁判所により適用されました。この場合、戸籍には依頼夫婦の「長男」「長女」などと実子と同じ記載がされるので、養子であることは一見は分かりにくくなり、また法的に実子同様の扱いとなります。普通養子縁組より特別養子縁組の方が代理出産において子の福祉のためには良いと考えられています。

 なお、将来的には、代理母となる女性に万が一のことが生じた場合の補償制度なども整備していく必要があると思っています。

代理出産を巡る当院と社会情勢の経緯
1995年20代前半未婚女性のロキタンスキー症候群(卵巣はあっても生まれつき子宮がない)の患者さん当院に来院。根津院長、代理出産についてより真剣に考えはじめる。
2000年1月姉のかわりに子供を産んであげたいとの代理出産の依頼の手紙が当院に届く。姉夫婦の受精卵を妹の子宮に移植。二度目で着床に至る。
2001年当院において代理出産により1児出産。養子縁組される。
2001年5月根津院長、国内初の代理出産実施を公表
2003年1月

厚生労働省が実施した、国民の意識調査
妻が子供を産めない場合に夫婦の受精卵を使って他の女性に産んでもらう代理出産を 認めてよい 45.8% 認められない 22.0%
2003年3月根津院長代理出産2例目公表
2003年10月米国にて代理出産した西日本の50代夫妻の双子の出生届が不受理になったことが判明
2003年4月厚労省生殖補助医療部会が罰則付きで禁止すべきとする報告書案をまとめる。日本産科婦人科学会も会告で禁止
2003年11月タレントの向井亜紀さん夫妻が米国にて代理出産を実施、代理母が双子の男児出産
2005年11月米国にて代理出産した西日本の50代夫妻の双子の出生届不受理が最高裁で確定
2006年9月向井亜紀さん夫妻が提出した出生届が不受理とされた問題で、東京高裁が「向井さん夫妻を親とすることが子の福祉にかなう」と、東京都品川区に受理を命じる決定
2006年10月根津院長、50代後半の母が娘の代わりに孫を代理出産した例を公表。過去2例を含め代理出産実施は5例に。
2006年11月法務省と厚労省が日本学術会議に生殖補助医療をめぐる諸問題関する審議を依頼
2006年12月民主党作業チームが代理出産を認める中間報告
2007年3月最高裁で向井亜紀さん夫妻の双子の出生届不受理が確定
2007年3月厚生労働省が実施した、国民の意識調査
妻が子供を産めない場合に夫婦の受精卵を使って他の女性に産んでもらう代理出産を 認めてよい 54.0% 認められない 16.0% 分からない 29.7%
2007年4月NHK世論調査
代理出産で産まれた子供を、受精卵を提供した夫婦の法律上の子供として認めるべきだと思うか。 認めるべきだ 56.0% 認めるべきでない 12.0%
2007年8月第8回日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」
当事者からの声という事で、実施医師として根津医師、依頼者として向井亜紀さんが呼ばれる。
2008年1月日本学術会議の検討委員会が、代理出産を新法で禁止するとする報告書案をまとめる
公開講演会が開催される。
2008年1月根津医師5例後、2組出産し、1組妊娠継続中と公表
2008年2月日本学術会議「生殖補助医療の在り方検討委員会」において、代理出産は原則禁止の最終報告書案が出される。
2008年4月16日
日本学術会議におけるで最終報告書が法務省・厚生労働省に提出される。

ガイドライン

 現在、代理出産治療の新規相談は受け付けておりませんが、引き続きみなさんのご意見、国に対する要望、当事者の声を受け付けております。

「代理出産」に関しましては国の法律は未だ整備されておりませんので、当病院では下記の如き当病院としてのガイドラインを策定し、患者(依頼者)ご夫婦と代理母、並びに双方のご家族にこの内容を十分了解していただいた上で、更に別紙様式に従って宣誓して戴き代理出産治療を実施します。
※「代理懐胎」という呼び名もありますが、当病院では「代理出産」と呼ぶことにします。

第一項:代理出産とは

代理出産には、下記のようにいくつかの方法があります。

1.体外受精による代理出産
1-A.依頼夫婦の受精卵を使った代理出産

依頼夫婦の精子と卵子を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性(代理母)の子宮に移植して子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との遺伝的つながりは保たれる。

1-B.第三者の精子または卵子を使った代理出産

依頼夫婦の精子または卵子を、第三者の卵子(代理母とは異なる女性の卵子)または精子とを体外受精させて受精卵をつくり、それを第三者の女性(代理母)に移植して子どもを得る方法。この場合依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫婦どちらかにはあることになる。

1-C.第三者の受精卵を使った代理出産

精子も卵子も第三者のものを体外受精させて受精卵をつくり、それをさらに別の第三者の女性(代理母)に移植して、子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦や代理母と、生まれた子との間に遺伝的つながりはない。

2.人工授精による代理出産

歴史的には最も早くからおこなわれてきた代理出産。依頼夫婦の夫の精液を、第三者の女性(代理母)の子宮に注入(人工授精)して、子どもを得る方法。この場合、子どもの遺伝上の母親は代理母となり、依頼夫婦と生まれた子との間の遺伝的つながりは、夫のみが持つ。
 以上のうち当病院では、当面は「1-A」のみをおこなうこととし、以下に述べる「代理出産」も「1-A」のみを指すことにします(そのほかについては今後の課題とします)。

第二項:実施対象となり得る方

下記のすべての条件を満たす場合を対象とします。

<依頼者>

1.婚姻を結んでいる夫婦で、妻は45歳以下の場合に限る(通常でも女性が45歳以上の場合の妊娠は皆無に近いことと、出産したとしても子どもが成人になるまでに夫婦が養育できるための体力的、経済的リスクが高いこととによる)。

2.妻が先天的もしくは後天的に子宮のない女性に限る(ロキタンスキー・キュストナー・ハウザー症候群や子宮摘出術を受けた女性など)。子宮はあるものの母体疾患等により妊娠・出産が不可能というケースの対応については、今後の課題としている。

<代理母(産みの親)>

1.当面は、依頼夫婦の妻の「実母」で、原則として60歳前後までの女性とする(代理母の健康状態により年齢は多少の幅あり)。この理由は法の整備や補償制度のない現状においてはこれが最もトラブルやストレス等を少なくすることができるとの考えからである。

2.代理母は金銭や生まれてくる子どもへの権利などを要求せず、あくまでボランティア精神で臨むもので、依頼者からの強要は受けていないことが必須条件である。

第三項:手続き

実施に至る迄に次のような事項に関し十分配慮し、慎重に手続きを進めます。

1.医師やコーディネーターは、依頼者・代理母・ご家族に対して、施術の内容について十分なインフォームド・コンセント(説明と理解と合意)をおこなう。また、施術の危険性や問題点(障害児が生まれる可能性、特に代理母が高齢である場合の体への影響など)について説明し、その場合の対応について依頼者・提供者・ご家族であらかじめ十分に話し合っていただくよう要請する。

2.当病院での代理出産は、あくまでも代理母のボランティア精神と、それを感謝する依頼夫婦との信頼関係と責任のもとで実施されることとする。依頼夫婦が代理母に金銭を提供する場合は、必要経費(診察費や交通費)や謝礼の範囲にとどめる。

第四項:親子の法的関係について

出産後は次のような手続きを踏むことになります。
1.代理出産により生まれた子どもはいったん代理母(産みの親)の子として出生届けを出し、その後に依頼夫婦の子として養子縁組をする(現行の民法や判例では子どもの母は「産んだ女性」、父は「その女性の夫」と定めている。そのため、現在はこのような対応をとらざるを得ない)。

2.ただし、最近裁判所の判断により、「普通養子制度」ではなく「特別養子制度」の適用されたケースがある。この場合、戸籍には依頼夫婦の「長男」、「長女」などと実子と同じ記載がされるので、養子であることは分かりにくくなり、また実子同様の扱いとなる。

※ガイドラインは、国の法整備や諸状況の変化などを踏まえ、当病院の倫理委員会で見直しの必要性を認めた場合は適宜改定をおこなうものとします。

1996年12月5日作成
2009年4月1日改定
2010年3月1日一部改定

心得

このたびさまざまなご事情の上に、強いご意思とご希望を持って、ご家族が一丸となって代理出産に取り組まれることと存じます。
 しかし、代理出産に関しては現在国の法律もなく、是非の議論がなされている最中であり、実施にあたっては皆様にご留意いただきたいことが多々あります。
 つきましては、「代理出産ガイドライン」と併せてこの「代理出産に対する心得」もお読みいただき、代理母となるお母様と娘さん、それを支えるご家族の方々、それぞれが代理出産に取り組むにあたっての決意と責任、さらには信頼関係についてもご確認いただきますようお願いします。  新しい尊い命を溢れる愛情を持って育てられる日を迎えられますよう心より祈念し、当病院も医療機関として全力でサポートさせていただく所存です。

1.医療の進んだ現代においても、いまだ妊娠出産には危険が伴います。代理母ご自身で自分の体を大切になさることはもちろんですが、その上でも、流産、子宮外妊娠、子宮破裂、羊水塞栓症、常位胎盤早期剥離などの重篤なリスクがあることも十分認識して代理出産に取り組むことを、ご家族でご確認ください(通常の妊娠出産においても避けられない事態は起こり得ます)。

2.万が一そのような事態が起きた際は、代理母・胎児の双方の命を救うことに全力を尽くすことは当然ですが、当院は二者択一の場合には代理母の命を最優先にさせていただきますことをご了解ください(通常の妊娠においても母体を優先します)。

3.その上でも、避けられない事態(死亡、後遺症など)が代理母に起こってしまった際を想定し、代理母ご本人の覚悟はもちろんですが、代理母と代理母のご家族に対し依頼夫婦はどのような対応をなさるかを、当事者間でお話し合いの上ご確認ください。

4.代理母の妊娠中、依頼夫婦が不慮の事故等(例えば死亡)で子どもの引き取りが不可能となった場合には、どうなさるのかを当事者間でお話し合いの上ご確認ください(人工妊娠中絶手術が許される妊娠22週未満での事故であれば妊娠中断するか、それ以後の場合なら出産し実母のご家族が引き取るか、養子縁組するか、など)

5.通常の妊娠でもあり得るように、生まれてくる子どもが、奇形児、染色体異常児、脳性小児麻痺、胎児死亡等である場合がございます。十分ご承知の上、代理出産に臨まれることをご確認ください。

6.現在代理出産については国の法律も社会のサポート体制もなく、現時点では少なくとも当病院での治療に関する限り、当病院と当事者の責任のもとでしか実施できない状況にあります。そのことを十分御承知おき下さいますようお願いいたします。

7.現行の民法や判例では、子どもの母は「産んだ女性」、父は「その女性の夫」と定めており、現在のように代理出産で子どもが生まれてくることを想定していません。
 そのため現段階では、当病院で代理出産により生まれた子どもはいったん代理母(産みの親)の子として出生届けを出し、その後に依頼夫婦の子として養子縁組するか、もしくは特別養子縁組を試みるかにならざるを得ないことをご理解ください(しかし、本来ならば「その子どもを認知した夫婦が父母である」とする民法改正が必要だと考えています)。

8.今後、前向きな法整備がなされ、国内で代理出産が公の形で認められ、生まれてくる子どもが堂々と幸せに生きていける社会になれるよう、当病院では今後もさまざまな働きかけをおこなっていく所存です。一般の方々の理解を深めてもらうためにも、代理出産当事者としての体験談や代理出産治療の事実に関して短所も全て含めて、マスコミへの取材などボランティアでご協力してくださいますようお願いいたします。そのような機会ではプライバシーを守る形での対応に限らせていただき、当病院が窓口となって、できる限りの配慮をいたします。それぞれのお立場で、できる範囲で結構ですのでよろしくお願い致します。

9.最後に、以下のことをお誓いください。
 ・代理出産を依頼する夫婦と代理母は、単に有る者が無い者に施すということではなく、ボランティア精神のもとに施すことのできる喜びと施しを受けることのできる幸せに感謝し、生まれてくる子どもの幸せのために責任をまっとうします。また、”命を授かる”ということへのすべてに対する感謝も忘れずに、真摯な気持ちで取り組みます。
 ・生まれてくる子どもに対しては理解力の持てた頃(4才~5才)に、この事実を話し、産みの親(代理母やその夫)と、実の親(依頼夫婦)との双方に対し感謝の心を忘れることのないように育てます。

以上が、当病院からの心よりのお願いです。
なお、治療に関しての不安、疑問等は遠慮なくスタッフにお伝え下さい。