はじめに

高齢不妊などという新しいカテゴリーを設けなければならない程、最近来院する不妊患者さんの中に、高齢が故に妊娠できない、又は妊娠しにくいカップルが増えています 現代における高齢不妊という問題を、産婦人科の医師という立場からお話しさせて頂きます。

子供が欲しいなら、女性は17、8歳で妊娠すること!?

何も懐古的になろうなどとは思いませんが、今から100年程前までは、女性は17、8歳で嫁に行き、子供を4〜5人から10数人産んでいました。

女性を子供を産む道具にしようとは思いませんが、女性がこの位の年齢で結婚し、沢山子供を生むことが、どれだけ無駄な不妊治療をしなくて済むかということについてお話致します。何故ならば、一般的な女性の妊孕期間が、15、6歳から45歳位までと考える時、その間に子宮や卵巣等は加齢によって変化し、特に35歳以降は著しく妊孕性が低下していくからです。 10代の女性で子宮筋腫のある人はまずいませんし、卵巣腫瘍のある女性は稀にしか居ないと言っても良いでしょう。しかし、若い時に芽のように存在していたものが加齢により大きくなり、不妊や不育症の原因になり得ることを忘れてはなりません。 近年、アンチエイジングというものがもてはやされていますが、見た目がたとえ若く健康であろうとも残念ながら女性の子宮や卵巣のアンチエイジングは出来ないのが現実です。

子宮の不妊原因疾患
1)子宮筋腫

先ず子宮に関してお話しましょう。子宮の腫瘍で最も多いのが子宮筋腫です。顕微鏡レベルで発見される子宮筋腫も含めれば、女性の2人に1人は筋腫があります。その筋腫は加齢と共に大きくなり、特に35歳から40歳頃にかけて臨床症状を引き起こす傾向にあります。筋腫には子宮の外側に出来る漿膜下筋腫、子宮の筋層の中に出来る筋層内筋腫、子宮の内腔に突出する粘膜下筋腫があります。子宮の外側に出来る漿膜下筋腫は、ほとんど妊娠に影響しません。

数年前に経験したケースですが、妊娠7週位で妊娠にて来院、既にその時子宮筋腫は胃の辺りにまで達していました。しかし、流早産に対する管理をして無事出産に至っています。しかし、筋層内筋腫で大きいものは、子宮の内腔の形を変形させ、不妊や不育症の原因となり、粘膜下筋腫に至っては、IUD、一般に言うリングと同じような役目をして、より不妊の原因となると同時に、生理を重くする原因ともなっています。粘膜下筋腫は、手術をするのに子宮の内腔まで切り込まなければなりませんが、どの筋腫も筋腫部分だけを核出すれば済むので、例えどんなケースであっても妊娠を望むのであれば、子宮全体を摘出する必要はありません。私の下に、未婚の時代に筋腫のために安易に子宮摘出術を受けてしまった女性が、代理出産の相談に多数来院しています。しかし、筋腫だけの理由で子宮摘出術を、それも本人が希望もしないのにすることはあり得ないことで、もしもあったとするならば、それは犯罪行為(傷害罪)と考えて良いと思います。

2)子宮腺筋症

次に多い子宮の腫瘍は、子宮腺筋症でしょう。これは子宮の内膜と同じような組織が子宮全体もしくは限局したかたちで子宮の筋層内に散らばって増殖してしまうもので、超音波検査の出来なかった時代は、多くは子宮筋腫と診断されていました。 これは月経困難症や月経過多の原因の1つで、悪性疾患ではありませんが子宮筋層内に癌のように浸潤して形成されているためその部分だけを筋腫のように核出することは難しく、多くは内膜症に対する薬を使って対応します。しかし、これはというような決定的な治療法は存在せず、最終的には子宮摘出手術をしなければならないというのが現実のところです。これも、大きな不妊症の原因となり、加齢と共に悪化し、閉経と共に治癒に向かう疾患で、超音波検査のお陰で診断が確定し易くなりました。

3)子宮癌
(1)子宮頚癌

STD(性交感染症)の一つ、パピローマビールスの感染によっても発症し、比較的若い女性での発症が多いといわれているのですが、若いときには子宮腟部異形成や上皮内癌のレベルであった方も、時間の経過のうちに進行癌へと重症化してしまうこともあることから、加齢により重症化する傾向にあるといっても良いのではないでしょうか。最近は頚癌検診が普及してきたため、円錐切除術という病変部だけを取り除く手術で対応可能なステージでの発見も多いのですが、しかし、依然として発見された時には手遅れで、子宮全摘出術と両側卵巣切除術を受けなければならないケースもあるのです。

妊娠検査の初回に必ず子宮頚癌検査をおこなうようになったため、若いうちに妊娠して産婦人科を受診すれば、癌に対する危機意識が薄くても早期発見となり、0期やIa期の早期癌であればそのまま妊娠を継続させることができます。しかし、独身の女性が婦人科の診察に抵抗感をもち子宮頚癌検診を受けずに年月をへた場合、いざ結婚してめでたく高齢妊娠で産婦人科を受診されたときにはすでに進行癌となっており赤ちゃんごと子宮を摘出せざるをえないということもありうるのです。

ところで、不運にも子宮摘出の必要があるステージで癌が発見されてしまった方は、以前であれば子供を望むことは諦めざるをえず、二重のショックをうけておられました。しかし、代理出産という道が残されていれば、希望をもって癌の治療に励むこともできるのではないでしょうか。しかし、まずは二十歳をすぎたらパピローマウィルスに感染する可能性があるかたは子宮頚癌検診をうけていくとともに、万一パピローマウィルスに感染したとしても癌化するまえに、つまり若いうちに結婚・妊娠なさることが大切だといえるでしょう。

(2)子宮体癌

基本的には閉経近く、又は閉経後の女性に多く見られる癌です。閉経期の女性にみられる子宮体癌とは異なる発症帰転ですが、若い方でもときどき子宮体癌がみつかることがあります。いずれにしても加齢と共にその頻度は高くなるわけで、これに関しても若い内での結婚・妊娠、又は不妊への対応をすることは、子供を得られなくなる頻度を減らすこととなります。

4)子宮内膜の条件

子宮内膜も加齢と共に妊娠に対する条件は悪化すると考えなければならないでしょう。特に前述した子宮筋腫や子宮腺筋症による影響が加われば、尚更のことです。又、子宮の内膜がポリープ組織に変化、粘膜下筋腫と同じようにIUD的役目を果たし、不妊の条件を作ることも起き易くなります。又、望まぬ妊娠に対し、人工妊娠中絶の機会もあり得るわけで、そのような既往が子宮内膜の条件を悪化させることにもなるのです。

子宮以外の不妊原因疾患
1)子宮内膜症、チョコレート嚢腫

これは、前述した子宮腺筋症の親戚で、子宮の内膜と同じような組織が子宮の周囲や卵巣等にも存在し、生理の度にその部位にも出血が見られ疼痛を来たし、月経困難症の代表的疾患として、最近注目を集めています。この部位は度重なる出血のため、周囲の組織と癒着、卵管も癒着等により通過障害等を起こし易く、不妊原因のかなりを占めることになっています。 卵巣にも同様なことが起こると、卵巣内に血液が溜まり、それが濃縮されてチョコレート嚢腫と呼ばれる卵巣嚢腫を形成、卵管との癒着も形成、嚢腫の肥大化も伴って体外受精における採卵も出来にくい状態を作ることがあります。

この状態は月経が来る度に重症化し、不妊以外に日常生活において月経困難症、排便痛、性交痛等も伴うことから、若い内の結婚・妊娠、又は不妊治療が最も求められる疾患と言っても良いでしょう。何故ならば、妊娠・出産・母乳育児が無月経状態を作り、子宮内膜症の重症化を阻止することにもなっているからです。 子宮内膜症が増加傾向にあるのは、環境汚染が関与しているとの考え方もありますが、私は妊娠・出産が遅くなったことも大きな原因ではないかと考えています。昔のように、17、8歳で妊娠・出産・母乳育児を繰り返していれば、子宮内膜症を発症させる余地が無くなり、例え発症しても、不妊原因とならずに済んでいたものと考えられます。

先日手術したケースは、以前にチョコレート嚢腫のため開腹手術をし、その際の腹腔内の状態は内膜症のため、対応し切れない程ひどい状態でした。そのケースの方が体外受精にて妊娠し、出産・母乳育児を経て、月経再開後、腹痛にて再来しました。その原因は、術後の瘢痕等のため卵巣が硬くなり、排卵しずらくなるいわゆる黄体化非破裂卵胞による排卵痛で、日常生活にも支障を来し、子宮腺筋症もあったため、本人の希望にて腹式子宮全摘手術を施行。その時の腹腔内の状態は、癒着に関してはひどい状態でしたが、以前認められた大きな内膜症病変は、ほとんど見られない所見を呈していたのです。即ち、妊娠・出産・母乳哺育が子宮内膜症の治療にも一役かっていたものと考えられた症例でした。

2)STD(性感染症)とその後遺症
(1)卵管閉塞

卵管閉塞や、次に述べる乳管水腫の全てがSTDの結果というわけではありませんが、ほとんどのケースがSTDの後遺症です。特に最近はクラミジア感染が多く見られ、その結果、卵管閉塞や癒着を起こし、不妊の原因や、子宮外妊娠の原因となっていることが多くなっています。

(2)卵管水腫

卵管の先端部での閉塞から卵管に水が溜まり卵管水腫を形成、水腫部分からの水溶性分泌物が時々子宮内に流れ込むようになり、着床しようとしている受精卵をも洗い流し、体外受精をしても妊娠しない原因となっている場合があります。このような場合には、卵管水腫を切除、体外受精での妊娠を指向すべきです。 若い内にSTDになってしまったならば結果は同じでしょうが、一般的には加齢と共にSTDになってしまう場合が多くなると考えられるため、これに関しても若い内の結婚・妊娠が不妊予防となり得るものと考えられます。

3)卵巣癌、卵管癌

これも加齢と共に頻度は増加することより、若い内での結婚・妊娠、又は不妊治療が求められることになります。

排卵障害による不妊原因
1)早発閉経

人によっては、一生の内排卵する卵の数が20〜30個とか、多くても100個位しか無い場合があり、月経不順で時々排卵が見られるものの、20歳代や30そこそこで早発閉経となってしまう場合があります。昔のように17、8歳で結婚していた場合は、2、3人子供を儲けた後、早目の閉経となっていた人は、今のように結婚を遅らせてしまうと、結婚前に排卵し切ってしまい、結局早発閉経のために子供を作ることが不可能な人が出て来るようになりました。私が最初に非配偶者間体外受精を行ったケースは、正にそのような状態であったものと考えられます。ちなみに医療の発達した現在においても、ご自分が持っている残りの卵の数を把握することは不可能です。

2)卵子の老齢化

男性の場合、活動性のある精子が有るのであれば、精子の老齢化ということは余り考えなくて良いかも知れません。しかし、女性の場合は、卵子の老齢化が決定的な形で存在するため、たとえ排卵していても、妊娠の可能性は低下、また、たとえ妊娠しても、染色体異常を来し易く、不育症の原因ともなり得るのです。 この卵子の老齢化を補うべくその卵子の核を若い人の卵の核を除去した中に入れ、原形質を若返りさせる形で卵子の若返りを図り、妊娠率を上昇させる方法も試されています。しかし、若い卵の提供者が居ないこと、又、倫理的な問題、原形質中のミトコンドリアの妊娠への関与等が考えられ、実際的に繁用されることは不可能に近い状態にあると言っても良いと思います。 このような理由により、現在のところ、卵子の老齢化が高齢不妊の最大の原因となっています。

男性不妊症

加齢による不妊原因の増加は女性だけに起こるものではありません。

1. 乏精子症、無精子症

男性の場合も、加齢と共に精子数が減少し、普通の夫婦関係だけでは妊娠が不可能になる場合も出てきます。又、年齢と共にSTDに感染する機会もあり得、それにより精管の閉塞により射精される精液中には精子が出て来なくなり、無精子症になる場合もあります。又、STDでなくても自然に加齢と共に無精子症となる場合も稀には存在しています。これ等に対してはかなりICSI(顕微授精)という方法で妊娠が可能になって来たとは言え、無視出来るわけではありません。

2. ED(勃起不全)

これも加齢や年齢に応じた社会的ストレスにより増加傾向にあります。単なるEDはバイアグラにより加療が可能でありますが、加齢やそれに伴ったストレスにより生ずる性欲減退も、不妊の原因となり得ています。

高齢不妊と社会の状況

次に、当院を訪れる患者さんの状態から社会の状況、そして高齢不妊の問題を考えてみたいと思います。

高齢不妊とその社会的原因
1. 生殖に関する無知

最近、高齢結婚の下、高齢不妊で来院するご夫婦が増える中に、生殖に関する無知からのケースが多くなっていて、それもインテリと呼ばれる人達の間に多くなっている感じがします。男性は生きた精子があれば死ぬまで妊孕性を持っていると言っても過言ではないのですが、女性の場合は残念ながら限界が存在しています。極端な言い方をすれば子供がほしいのならば35歳までに妊娠すべき、でしょう。

過日、以下のような御夫妻がはるばる遠方より来院されました。奥さんが45歳、御主人が56歳、2年前に結婚、その後子供が出来ないので他院で加療、体外受精を3回受けられ、年齢的に無理に近いと言われ、当院を受診されたとのことでした。奥さんには子宮内膜症と子宮筋腫が幾つかあるとのことでした。過去に少し病気をしていたことと、親の面倒を診ている内に婚期が遅れてしまったが、結婚したら子供はすぐ出来るものと思っていたとのことでした。又、受精卵はグレード1(良好)だから、きっと子宮の状態が良くないので、代理出産をしてもらいたいとの希望も持っていました。私はこの話を聞いて、結論的に不可能であると判断させていただき、おもむろに話を始めました。

「御夫妻の年齢からして、妊娠することが大変難しいことと、更に、子宮内膜症、子宮筋腫という条件と奥さんの年齢を考えた時、この信州まで足を運ばせても貴重な時間とお金を浪費させてしまう結果で終わることは大です。また、『代理出産でも』とのことですが、一体誰が代理出産をしてくれるというのです。簡単に代理出産などということを考えないでください。失礼ですが、この年齢になって結婚したならば、大切な時期を不妊治療のために無駄に費やすことよりも、今の時期を二人でエンジョイしながら老後のことを考えたらどうでしょう。

それにたとえ不妊治療を続けて万が一お子さんが出来たとしても、将来20歳そこそこの子供にお二人の老後の責任を負わせることになるということをお考えになったことはありますか?お二人と同じようなお考えの方達が沢山受診されていますが、いつも同じようなことをお話し、不妊治療を諦めて頂くようにしています。これだけの時間を使い、関わらせて頂いている私の気持ちを御理解頂き、お引き取りください。」

何とつれない対応をしているかと思われても仕方無いのです。このような方々は、妊娠は結婚と同時にやってくるものだというお考えを、一般的な妊孕期間を過ぎ、様々な疾患をお抱えになっていてもまだなお捨てずにお持ちです。人間には諦めることも必要だと思います。 このような内容を不妊患者さんから御連絡頂いた時、御返事をメールやFAX、又は電話で済ませられる内容ではないと思うので、なんとか別の時間を作り、1〜2時間程かけてお話させて頂いております。変な話ですが、これだけ時間をかけても平日の初診料しか頂いておりません。そんなことはどうでも良いのですが。
身から出た錆でしょうが、今や全国からの不妊患者さんのよろず相談所をやっているというのが現実です。

2. 社会環境と若者の未婚化

女性の初婚年齢の平均は29歳と言われています。また妊娠にとりくもうと考える頃には、既に女性が高齢不妊の域に入っているというのが現実かも知れません。

3. 乏結婚チャンス ─結婚相談所の必要性─

少子高齢化ということが叫ばれてから久しくなります。しかし、何ら対策が取られず、政府の出す予想を上回って少子化が進んでいることを、最近の外来診療を通じても如実に感じているのは私だけではないと思います。それというのも、婦人科疾患で来院する患者さんのかなりの方が結婚していないのです。それも前述した結婚したくないというのではなくて、結婚したくても相手が居ないという人が多く目に付くのです。折角子宮筋腫の筋腫だけ切除してあげても、又、子宮内膜症の結果、チョコレート嚢腫が出来ている方に、開腹せずチョコレート嚢腫の内容吸引、嚢腫内膜のアルコール固定をして妊娠し易くしてあげても、結局結婚・妊娠というプロセスを経ずに終わっている人等。そんな人達に、「苦労して子宮や卵巣を残してあげたのに、どうして使わないんだ」と、冗談交じりに言うと、「結婚したくても相手が居ないんです。私の職場は男性が居ても所帯持ちばかり。車で朝早く出勤して遅く帰宅する生活で、どうやって結婚相手を探すのです。先生探してください。」と。

そのような話を聞く度、結婚生活や家庭生活に対する魅力減退だけの問題でなく、結婚相手が探せないという現状も大きくなっている感じがします。自由恋愛の中で、チャンスを作れない人達に、かつては仲人という役目の人達が、それでも残っていたのですが、今は皆無に等しく、例え居たとしても「最近の人達は難しくて」という反応が返って来るのも事実です。

難しいかも知れませんが、やはり、仲人役が必要ではないかと考えられます。
近年は自治体で積極的に結婚支援の事業を始めるところも出ているようですが、なかなかむずかしいようです。

4. 妊娠・出産・育児への援護体制の未整備

女性が働きながら、妊娠・出産・育児を可能とする体制が、家庭内にも社会的にも充分整っていないことが、結婚・妊娠への意欲を減退させ、それでもと結婚・妊娠をやっと決心した時には既に手遅れとなっているような高齢不妊例も増えて来ています。 確かに男女共同社会というシステムは整い始め、男性と同じように重要なポジションに女性も就けるようになって来ました。しかし、簡単にその場からその立場の女性が結婚を理由に手を引いたり、手薄にすることなど出来ない状態にもなりつつあります。また、たとえ夫である男性が育児をサポートできたとしても、妊娠・出産・母乳育児は女性でしかできないことです。即ち、妊娠・出産・育児によって仕事から手を引いたり手薄になることが、たとえ仕事に復帰し得たとしても、仕事を休まず続けていた男性と肩を並べて仕事を続けるには大変な労力を要するでしょう。このことを考えると、なにかしらの対策が施されない限り女性が婚期を逸し、高齢不妊となることは否めない事実となるのです。

少しでも働く女性が母乳育児に困らないようにと、当施設では独自の0歳児母乳保育士育成に努力、その結果そのような保育士が院内の働く女性の母乳哺育継続を可能にしていますが、それは子供を生んだ後のことでしかあり得ません。即ち、どんなことをしても、女性しかし得ない妊娠・出産の期間を男性が取って変わることはできないのです。

日本の今の状況を考えても、女性の労働力は国の財産なのですから、その女性たちにより多く子供を産んでもらう為の社会制度を国は早く打ち出さないと、晩婚化も高齢不妊も少子化もくいとめることは出来ないでしょう。

高齢不妊の社会への影響

高齢不妊に対する治療の結果、妊娠できたとしましょう。この場合は高齢が故に、異常妊娠・異常出産となる率は当然増えることになります。また、高齢になればなる程、母乳分泌は低下、人工栄養となる確率が増え、そのための子育てにおけるのデメリットも考えておかなければならないものと思います。

また、社会である程度の立場を有し、高齢になったカップルの場合、頭で考えた子育てに陥り易い傾向があります。基本的に子育ては体でするものです。一概にはいえませんが、高齢出産したケースに子育ての下手なケースが多いのは、そのためだと思うのは私の偏見でしょうか。 女性が妊娠せず働くことにより、社会に貢献出来るメリットはあります。しかし、その結果、高齢不妊を作り、その不妊治療に要する治療費とそれに要する時間的損失、そして何よりも次の世代を担う子供の出生が遅れること、更には子供ができなかった場合を考えると、経済的人的損失は計り知れないものがあります。

また、前述したごとく、例え妊娠できたとしても、高齢が故に異常妊娠・異常出産は多くなるわけで、それに要する治療費、時間的損失は社会全体においても馬鹿にならないものと思います。

ですから、女性が働きながらでも子供を産める環境をつくることは、社会全体にとって経済的にとても有益なことなのです。

高齢不妊と扶助生殖医療

扶助生殖医療

精子や卵子の提供を受けたり、子宮を借りて妊娠せざるを得ないような、即ち、外の人の助けを得て治療する生殖医療のことを新しいカテゴリーとして扶助生殖医療と呼ぶことにしました。 前述したごとく、加齢の結果発症する無排卵や無精子症に対し、他の人の卵子や精子の提供を受ける非配偶者間体外受精やAIDの頻度は上昇するであろうし、何らかの原因で子宮を無くした結果、代理出産をせざるを得ないようなケースも、加齢と共に上昇すると言っても良いでしょう。 しかし、これ等の内、日本の産婦人科界が是としているのはAIDだけで、後は認めようとせず、国もこれに倣った法律を、罰則まで付けて成立させようとしています。

過日は韓国において日本からの卵子を求めて来る人達のために、卵のブローカー的存在の業者が、韓国で新しく出来た禁止法の下で捕まったという報道がありました。その時の内容からすると日本から300人近い人達の登録がされていたとのこと、それだけの卵子を求めての非配偶者間体外受精に対するニーズがあるわけです。この中のかなりの人達が高齢不妊である率は、非常に高いと私は考えています。かくのごとく、これから益々、高齢が故に、扶助生殖医療を求めなければならない人達が増えて行くことは必至であると考えなければなりません。少子高齢化が叫ばれてから久しくなり、それが加速度的に増えている現状の中で、扶助生殖医療に頼らざるを得ない人達も増えて行くとするならば、扶助生殖医療を禁止するような理に合わぬ取り決めは一刻も早く撤廃して、率先して出来るような体制を、国を挙げて作るべき時に来ているものと考えます。もし、国がそのような方向に動き出せば、扶助生殖医療を求める人達は殺到すると同時に、多くの協力者も名乗りを挙げてくれると思います。

国は本当の意味で、少子化と生殖医療の現状に取組まなければいけないところに既に来ていると思います。

卵子セルフバンク

本来の卵子セルフバンクの目的は、白血病や様々な癌治療、中でも抗癌剤や放射線治療に先駆けて、その人の卵を採卵してストックして置き、治療が終わった段階で、また、未婚の女性であれば、結婚をした段階で体外受精させ、子宮に戻すことにより、妊娠を可能にすることにあり、それが最近は出来るようになりました。働く女性が結婚・妊娠をしている暇が無い場合、せめてもの高齢不妊の善後策としてこの方法を用いることも必要でしょう。前述して来たように、高齢不妊は益々増加することは間違いありません。日本産科婦人科学会ではやっと一部の施設で施行し始めたところですが、国としても率先して卵子セルフバンクを推進する時に来ていると思います。

まとめ

高齢不妊の現実、また、将来像を述べて来ましたが、このまま高齢不妊を黙認するのか、その現象を食い止めるのかの二つに一つであります。 高齢不妊を黙認するならば、もはや国の将来を諦めなければならないでしょう。何故かと言えば、人口の減少は国力の減退に、そして国の崩壊に通ずるからです。 ではこれを食い止めるとするならば、女性に早い内での妊娠を奨励するか、高齢不妊に対するサポート策を講ずるかのいずれかということになります。

女性に早い内での妊娠を奨励するというのならば、若いうちに結婚が出来るための支援をするだけでなくシングルマザーに対する社会のバックアップも必要でしょう。たとえ一人でも女性が安心して子供を育てることの出来る社会なくして、この問題は解決できるとは思えません。 次に後者の高齢不妊に対するサポート策について考えてみましょう。最も現実味があるものは、卵子セルフバンクではないかと思います。卵子セルフバンクは当施設でも既に門戸を解放し、稼働しています。 卵子バンクが普及すれば、もし自分の卵子を卵子セルフバンクに預けておいても、自然妊娠し、バンクの卵子が必要なくなれば、当然本人の同意の元ですが、卵子の無い人に提供することができ、提供卵子の需要過多の現状を充分カバー出来ると共に、高齢不妊の解消にも一役買うことが出来るものと思います。

これ等と併行した形で、前述して来た高齢不妊に関する様々な問題点を話し、若い内での結婚・妊娠を促すことをすべきと考えます。その場合、仲人役のボランティアを募り、また、大学内や勤務先の託児施設の充実、子供をもつ女性に対する様々な優遇措置を充実することを忘れてはならないと思います。何度も申し上げますが、高齢不妊を考えることは、少子化を考えること、そして日本の将来を考えることです。なにも子供を産みたくない女性に産むことを奨励する必要はありませんが、少なくとも産みたいと考えている女性が安心して子供を産める環境を作ることは、今後日本の大きな課題といえるでしょう。

国は今まで放置してきてしまった高齢不妊や生殖医療における問題、そして少子化の問題に対し、安易に「女性は家庭に入って子供を産むべきだ」と結論付けずに、早急に抜本的な意識改革の上、現状に即した将来性のある対策を行うべきだと考えます。