はじめに

▶︎ガイドライン

多胎一部救胎手術(減胎手術)とは・・・

多胎一部救胎手術(減胎手術)とは、自然に、又は不妊治療の結果、多胎妊娠となった母親に、妊娠22週未満において胎児数を減らし、母子共に安全に妊娠経過させ出産に至らせる方法

(一般的に、減胎手術、減数手術と呼ばれている。当初は、当院においても減胎手術と呼んできたが、一人でもこの世に安全に誕生するために行う施術のため、「多胎一部救胎手術」と呼ぶことを、近年当院より提案)

1980年代頃、不妊治療の中で排卵誘発剤、または体外受精における受精卵を数個子宮に戻すことにより全国的に多胎妊娠が多発した。多胎妊娠による母子双方におけるリスクは非常に高い。不妊治療を受けて、やっとの妊娠にも関わらず6胎、7胎妊娠で、全員中絶か全員産むかの二者択一しかなかったために、全員中絶をやむなくされていたケースも数多く報告されていた。

1986年に当院の根津院長が減胎手術を日本で初めて成功(同年に世界で初めてオランダでの実施例も報告される)。以来1300例以上の減胎手術をおこない、多くの命が誕生している。当院で減胎手術を受けた妊婦さんが出産に至るのは約98%であり、通常の妊婦さんの出産に至るケース(減胎手術を受けていない通常の妊娠においても全てが出産に至るわけではない)と比較しても有意差はなく、医療行為として確立したものであるといえる。
諏訪マタニティークリニックにおける減胎手術はほぼ他院からの患者さんであるが、多胎妊娠がわかった際に、担当の医療者から適切な情報提供がほとんどなされていない。当初、非常に強いバッシングが起こり、また日本母性保護産婦人科医会(現在の日本産婦人科医会)により実施の禁止が通達されたため、その後完全に多胎を防ぐことは不可能であり減胎手術の必要性が認められ方向転換がなされるものの、未だに「違法である」と誤認している医師も多く存在している。

根津院長が減胎手術を発表した当初、非常に強いバッシングを世間からも産婦人科界からも受けた。時代的に、排卵誘発剤が登場して間もなく、一部の医療者には多胎発生が問題となっていたものの多胎リスクも周知されておらず、世間的には5つ子ちゃんブームなどがあり、堕胎罪に当たる可能性がある、現代の間引き、などと非難された。

その後、2000年代になり産婦人科界や厚生労働省審議会などでも、施術の必要性を認める方向で報告書などが作成されたが、具体的には何も定められないまま、現在に至る。 30年以上経つ今も減胎手術に関する法的な位置付けはなされていない。

日本各地の様々な施設で実際には行われているといわれるが、実状は公表されていない。また、医療機関により施術方法も成功率もばらつきがあり、助けることのできる命が失われている可能性がある。法的にも医療的にも公なルール整備が強く望まれる。

取り組みと歩み

取り組みと歩み

1982年、排卵誘発剤を用いたタイミング治療により、当院において初めて4胎妊娠が起こってしてしまいました。当時、排卵誘発剤は不妊治療における福音、画期的な薬剤といわれ、全国的に使われだしていた頃でした。排卵誘発剤を使用すると、排卵障害で妊娠することができなかった方が排卵でき、妊娠が可能となりました。しかし、その反面、排卵する卵子の数を制限することができないため、多胎妊娠が発生してしまうことにも繋がったのです。当時は現在のように超音波エコーで排卵前に育っている卵胞数の確認をすることもできませんでした。
全胎産むか、全胎人工妊娠中絶するか、それしか方法はありませんでした。4胎妊娠に戸惑い、人工妊娠中絶を考える患者さんご夫婦に、せっかく授かった命だからと私(根津院長)は妊娠継続をすすめました。その結果、妊娠後期には入院しての絶対安静の状態となり、大学病院と連携を取り万全を期すため出産をお任せし、4人が未熟児で誕生、その内の1人が脳性小児麻痺を伴うこととなりました。これは明らかに多胎による弊害でした。
また、妊娠中の母体は大きく膨らんだお腹から手足が突き出ているといった様子になり、全く身動きが取れない絶対安静の日々でした。多胎妊娠とさせてしまったこと、また妊娠継続をすすめたために、母子ともに大きな命のリスクを負わせてしまったことに、強い自責の念に駆られました。
(当時は、国民的アイドルの五つ子ちゃんブームなどもあり、多胎のかわいい部分ばかりがクローズアップされ、その弊害は社会の表にでていませんでした)

すべて、多胎が故に為せる業であることから、多胎をおこさないように細心の注意をはかるとともに、起こってしまった際にいかに安全に出産に至らせられるか、全胎中絶をしないでも安全にすむ方法はないかと考えるようになりました。

4年後の1986年に当院においてまた4胎妊娠が起こってしまいました(この時点でも、まだ卵胞確認のできるエコーは開発されていません)。その際、ご両親はとても全員産み育てることはできないと、悲痛な思いで全胎の中絶を覚悟されていたため、それまでに考案していた妊娠中における減胎のことを提案しました。2胎を減胎し2胎を残す手術を、万が一の際には全胎中絶をおこなうという形で、同意のもと施行、その後無事母児共に安全に妊娠経過し、そして元気に双子が誕生することが出来ました(同年に、オランダにおける減胎手術の報告がなされました。これが世界初とされています。世界に於いても、不妊治療による多胎をなんとかしようと模索しているような状況だったのだと思います)。

私がこの事実を報告するに先立ち、学会では6胎妊娠例の全胎児中絶例などが報告されていました。子供が欲しくてやっとの思いで妊娠したケースにおいて、多胎が故に全胎が人工妊娠中絶されてしまう。やっと宿った命をいくつも断つことは、医師としてはもちろん、親からしたらとても耐え難いことだと思いました。 それならば、医師として多胎妊娠に極力ならないように努めることは当然のこと、それでももし起こってしまった場合には、全胎人工妊娠中絶するよりも、一人でも二人でも安全に誕生することができる方が、まだベターではないかと思い、患者さんの同意のもと施行し発表しました。
しかし、実名での学会発表であったにもかかわらず、無事に出産が済んだ後、新聞にて匿名の「医師A」として、否定的な報道がなされてしまいました。
本来、一番多胎の問題を認識しているはずの産婦人科医の集団である、日本母性保護産婦人科医会(現在の日本産婦人科医会)が、「堕胎罪にあたるおそれがある」と減胎手術の施術を禁止する通達を出し、減胎手術は完全否定されてしまいました。

あまりに強いバッシングの嵐に、一時は全てやめるべきかと考えたこともありましたが、全国から悲痛な思いで助けを求めて来院される患者さんを前に、やはり、一人でも二人でも多くの命を救いたいと奮いたち、施術を続けました。
「6胎を全胎中絶することは全く問題ないと許され、4胎の内2胎の命を助けることは許されないという道理はあり得ない」と、当事者を全く無視した考え方の産婦人科界のリーダー達に対し、人工妊娠中絶に抱いていた矛盾が重なり、更に不信感を強く抱くこととなりました。
当事者不在の医療のあり方は、その後時代の流れとともに起こった他の生殖医療の問題においても同様であり、その後の私の問題提起へと続くこととなりました。


多胎妊娠は、排卵誘発剤を用いた一般不妊治療だけでなく、その後の体外受精の広がりのなかで、非常に多く発生するようになりました。体外受精の誕生した初期の頃は、受精卵の凍結保存の技術はなく、せっかくできた受精卵を廃棄してしまうのはもったいないと、妊娠率を上げるためにも多数の受精卵を子宮に戻すことが世界的に行われていました。体外受精の技術も妊娠率も現在ほど高いものではありませんでした。
そのため、各地で非常に多くの多胎妊娠が発生し、問題とされるようになりました(水面下での減胎手術が非常に多く行われてようです)。当院では、減胎手術が公に認められるように問題提起をし続けてきました。しかし、多くの受精卵を戻し、妊娠後減胎すればいいというような考えには真っ向から反対の立場を取っていました。
その後、日本産科婦人科学会は会告によって子宮に戻す受精卵の数を制限(1996年原則3個、2008年原則1個に)するようになり、体外受精による多胎妊娠は激減しました。
(現在は、子宮に戻さない受精卵も非常に高い技術で凍結保存することができるようになり、日本における体外受精の実施数(胚移植の数)は、新鮮胚移植より、凍結胚移植の方が多くなっています)
一般不妊治療の排卵誘発剤による多胎の問題は、現在は排卵する前に育っている卵胞の数を超音波エコーで確認することができるので、あまりに卵胞が多く見られる場合にはその周期での妊娠を試みないことによって多胎妊娠は防げるようにはなりました。しかし、それはその周期では妊娠の可能性は0になってしまうことでもあります。また受精する卵の数を調整できないため、多胎妊娠の問題は残り続けています。

2000年代に入り、ようやく全面否定の流れにも変化が見え始めました。
日本産婦人科医会、日本受精着床学会、厚生労働省審議委員会などでも、施術の必要性を認める方向で報告書などが作成されるようになりました。しかし、具体的には何も定められないまま、 30年以上経つ今も減胎手術に関する法的な位置付けはなされておらず、医療ガイドラインもありません。 日本各地の様々な施設で実際には行われているといるものの、公表されていないため、実態把握はでいていない状況です。また、医療機関により施術方法も成功率もばらつきがあり、成功率は五分五分というようなところもあるようです。そのため、助けることのできる命が失われている可能性があります。
2015年には、大阪で排卵誘発剤による一般不妊治療を受け5胎妊娠となり、その施設での非常に稚拙な手技による減胎手術を受け30回をも腹部を穿刺され、5胎全ての命が失われるようなケースが起こってしまいました。
これは、一医者だけの問題ではなく、公的なガイドラインもないことにより起こってしまったと言えます。

問題提起当初より訴え続けてきていることですが、減胎手術を安易に希望する患者さんはいません。苦しみながらも、なんとか一人でも二人でも我が子の命が守られ、無事に誕生して欲しいと願い、手術に臨みます。だからこそ、極力安全な方法で、安心して施術を受けられるようにすることが必須なのです。そのために、法的にも医療的にも、当事者のための公なルールが整備されることを強く望みます。

全国から当施設を訪れ減胎手術を受けられたご夫婦は1,397組(2020年12月17日現在)となり、多くの命が誕生しています。

問題提起の変遷
1982(S.57)当院で四胎妊娠継続、出産後1児がCP(脳性小児麻痺)を伴ったことにより、多胎妊娠・未熟児出産における母体/胎児への負荷を強く認識するようになる。
1986(S.61)再度当院で四胎妊娠生じる。
19862.4減胎手術実施。
6.15第71回日本産科婦人科学会関東連合地方部会で「四胎妊娠を経膣的に二児に減じ妊娠を継続させている一症例」と題し発表。
8月経膣分娩で二児の男の子出産。
8.10読売新聞紙面上で減胎手術について発表される。実名ではなく「医師A」と匿名扱いにされてしまう。内容は批判的なトーンであったが、患者さんへの配慮はなされていた。日本母性保護産婦人科医会(故 森山豊会長)より「日母医報」という小冊子上で減胎手術を否定する通報が一方的になされる。
1987(S.62)減胎手術二例目報道後、日母より苦言が風の便りで届く。特別養子縁組の特別法を成立するきっかけとなった「菊田昇」医師と同じように根津も優生保護法指定医の資格を剥奪されるのではないか、とも噂されるようになる
19932.8毎日新聞に減胎手術継続の記事が出る。日母が「日母医報」を通じて再度通達をだす。優生保護法違反で堕胎罪(1907/M.40)のおそれのある違法行為と批判。圧力により刑事が形式上の事情聴取に来るが法を犯してはいないため罪には問われず。
1998「減胎手術の実際」(近代文芸社刊)
19988.29(卵子提供を行ったことに関し評議会の決定により日本産科婦人科学会より除名処分を受ける(会告破りの罪)除名処分不服の訴えを起こす。5年間の法廷論争の末和解成立。2004.2.21の理事会により日本産科婦人科学会に復帰成立)。
20003.26日母が今まで大反対し続けてきた新家薫氏を中心に、何の予告もなしに方向転換、母体保護法改正の提言の中で減胎手術を認める案をだす。
2003.5厚生科学審議会生殖補助医療部会が、報告書の中で減胎手術について「予防措置を講じたにもかかわらず4胎以上、やむを得ない場合は3胎以上となった場合には実施を認め得る」とする
2004.11受精着床学会が減胎手術に関する見解を示す。(母体保護法を下に合法化する等)
2007.11日本医師会が母体保護法等に関する検討委員会の答申において、減胎手術の必要性を認め、具体的な検討の必要性を述べる

ガイドライン

減胎手術(多胎一部救胎手術、略して一部救胎手術)ガイドライン
医療法人登誠会
諏訪マタニティークリニック
「一部救胎手術」に関しては、国の法的な位置付けはまだ明確ではありません。そこで、当病院では下記のガイドラインを独自に定め、患者さん・ご家族にも了解し宣誓していただいた上で実施します。

第一項:一部救胎手術とは

自然に、または不妊治療の結果、多胎妊娠となった母親に対して、胎児数を減らし母子ともに安全に妊娠経過させて出産に至らせる方法を「一部救胎手術」と呼びます。今までは減胎手術と呼称していましたが、「多胎一部救胎手術(略して一部救胎手術)」と呼ぶのが望ましいと考えそのように呼称するようにしました。

第二項:実施対象者

妊娠22週未満であり、かつ以下のいずれかに該当する方

1.原則として、多胎の妊娠・出産が母子双方に危険を及ぼす可能性がある場合。
2.すでに子どもがいて、多胎児の養育を考えた時、母体に過度の負担が考えられる場合。
3.胎児診断の結果からして、多胎児の養育を考えた時、母体に過度の負担が考えられる場合。

第三項:残す胎児の数

1.基本的には2胎を残すこととします。
2. 2胎を妊娠・出産・育児するに耐え得る能力が、母体に乏しい場合(過去に筋腫核出術や帝王切開などの既往がある方や、妊娠により悪化するさまざまな疾患をお持ちの方、上に子どもがいる方など)は1胎のみを残すことも可とします。

第四項:実施に際してのカウンセリング

施行にあたり、医師、看護師、カウンセラー等によるカウンセリングをおこないます。

第五項:実施方法

一部救胎手術にはさまざまな方法が考えられますが、当病院では、妊娠11週の週内(過ぎても妊娠22週未満)で、減胎する胎児に塩化カリウム液を注入して心停止に至らせるKCl注射法をとっています。
 心停止した胎児は母体に吸収され、吸収されずに残った胎児部分は生児の誕生の際に卵膜とともに体外に排出されます。

第六項:現行法に対する解釈

一部救胎手術は、「人工妊娠中絶手術」の一方法であるとみなし、施行した場合は人工妊娠中絶に関する届け出をします。

 [理由] 現行の母体保護法が定める人工妊娠中絶手術の定義では、妊娠22週未満に「胎児及び胎児付属物を母体外に排出すること」とされています。
 塩化カリウム液により心停止した胎児は、残された生児が誕生した際(症例により異なりますが、手術から約30週間後)に卵膜とともに体外に排出されることから、「30週間近くかけて人工妊娠中絶手術をしたもの」と解釈しています。

 諸般の事情により12週以上22週未満で減胎した場合は、出産の際に卵膜部位に存在する減胎された胎児部分に関しては死産届を提出し火葬にて弔うこと。

※ガイドラインは、国の法整備や諸状況の変化などを踏まえ、また当病院の倫理委員会にて見直しの必要性を受けた後、適宜改定をおこなうものとします。



1986年2月4日作成
2009年4月1日一部改定
2010年3月1日一部改定
2013年6月1日一部改定
2014年2月1日一部改定
2015年11月1日一部改定
2018年4月1日一部改定
2019年7月1日 一部改定

心得

はじめに

多胎妊娠は、一般的に胎児数をnとした時、89のn−1乗分の1の頻度で発生するとされています(Hellinの法則)。しかし、排卵誘発剤、中でもhMG・hCG、そして体外受精・胚移植(IVF・ET)による不妊治療の普及以降、多胎妊娠の頻度は一気に上昇することとなりました。その結果、多胎妊娠の美談の陰で、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、自然流産、そして未熟児網膜症や脳性小児麻痺(CP)の出現頻度も上昇することとなったのです。
当院でも1982年に入り、hMG・hCG療法によって4胎妊娠例を経験することとなり、4人の未熟児の出産、そしてその内の1児はCPを合併する結果となりました。
このことが契機となり、多胎妊娠を起こさないよう最大限の努力をすることはもちろんのこと、妊娠初期の段階で胎児の数を減らし、無理な妊娠生活を送らせず、無事出産に導く方法を模索することとなったのです。

それから4年後の1986年、排卵障碍の不妊患者さんに対するhMG・hCGによる治療の結果、再度4胎妊娠例に遭遇することとなりました。そこでそれまで考えていた人工妊娠中絶の方法を応用した一部救胎手術(一部掻爬法)を患者さんに提案、もし異常が生じた場合は4胎全部の中絶を覚悟しての2胎に減ずる手術を施行、無事健康な2児を出産することができました。

その事実が報道されるや、人工妊娠中絶に関係する日本母体保護産婦人科医会(日母)、現在の日本産婦人科医会(産医会)の天皇と言われていた当時の会長の一声で、中止命令が出されることとなりました。その理由は、全部を中絶していないから当時の優生保護法、現在の母体保護法に反し、堕胎罪の適応を受けるかも知れないとのことでした。そして「やるのは勝手だが、お願いだから黙ってやってくれないか」との親しい目上の方からの御意向を頂いたこと。そもそも4胎全部を中絶したら許され、2胎を残して無事出産することは許されないという道理は無いとの考えの下、以後も続行することとなりました。それまでは、指導的立場にある方々の決めたりおっしゃられることは、それなりの論理性を持ってのことと一目置かせて頂いていたのです。しかし、このことを契機に、目の前の患者さんのことを第一義的に考え行動することを決心することとなり、以後の特殊生殖医療の諸々へと続くこととなったのです。

4例までは前述した「一部掻爬法」で、1988年8月11日に施行した5例目からは、子宮内で胎児死亡に至らせ母体に吸収させるEvansらの「KCl注射法」にて行いながら現在に至っています。
尚、母体保護法下における人工妊娠中絶の範疇での手術と考え、「妊娠継続が経済面でも健康面でも母体に害を及ぼす恐れのある場合」を手術適応としています。
しかし、一部救胎手術に関する法的な位置付けが成されていない現在においては、「医師の裁量」の下で施行されて然る可き手術と考えています。

このたびさまざまなご事情のもと、一部救胎手術に臨まれることと存じます。
しかし、一部救胎手術に関しては明確な位置づけもされておらず国の法律も無いため、当病院では独自のガイドラインに基づき施術をおこなっております。
「一部救胎手術ガイドライン」と併せてこの「一部救胎手術に対する心得」もお読みいただき、ご家族でご確認・ご納得の上、減胎手術に臨んでいただきますようお願いいたします。

1.手術を受けるにあたって
手術の目的は、「一人でも多くの命を残す」「安全に生児を獲得する」ことにあります。子どもを望んで妊娠したにもかかわらず妊娠した胎児の数が多いがために、または、胎児診断の結果を踏まえた患者さんのご意向の下に手術は行われています。
人間が持ち合わせていなければならない絶対的倫理観の一つとして、「人を殺傷してはならない」という一項があるものと考えています。一部救胎手術も人工妊娠中絶も、その一項に反することには間違いありません。しかし、もし一部救胎手術をしなければ、また、人工妊娠中絶をしなければ、という狭間において、ご自身が熟慮し出された結果であることも間違いないでしょう。
熟慮されて手術を選択したにもかかわらず、術後減胎された児を想い罪悪感を持たれる方がおられます。そして、他に方法があったのではないかと後悔をされる方もおられます。罪悪感を持つことも後悔することも人間ですので否定は致しませんが、一部救胎手術を受けられるのであればその事実を受け入れ、手術によって助けられ生まれて来た命に感謝し、生誕された子どもさんを大切に育てて頂きたいと思います。
罪悪感をいつまでも持ち続け、後悔し続ける可能性があるならば、最初から手術を受けるべきではありません。
当院のスタッフは、残されたお子さんにとっても、また、御家族にとっても手術を行なうことが少しでもプラスである事を願い、施術に関わらせて頂いております。

2.内服薬に関して

 アスピリンなど抗凝固剤を服用されている方は手術前の4〜5日間は内服を止めて下さい。他に内服されているお薬がある場合はお知らせ下さい。

3.麻酔に関して
手術手技による感染や流産の危険性を考え、一般的手術と同様に、手術室において十分な消毒と十分な麻酔(静脈麻酔etc.)下で施行し、外来等で安易な消毒や麻酔法で施行してはなりません。
尚、当院では塩酸ケタミン(ケタラール)とミダゾラム(ドルミカム)という静脈麻酔による全身麻酔下で施行します。この麻酔薬は妊婦さんにとっても安全な薬であり、当施設においても、既に妊娠中の数千人の患者さんに使用しておりますが、特別な問題は起こっておりません。実際には、静注用ケタラール3ml(30mg)、ドルミカム1/2A(5mg)、アトロピン硫酸液1A(0.5mg)を静注、状況に応じ、ドルミカム1/2Aを追加、その後はケタラール3mlを追加しながら行います。ただし、薬に対するアレルギーのある方は必ず事前にお知らせ下さい。

4.施術に関して
腹壁より超音波検査下で針を刺入し、胎児に塩化カリウムという薬剤を注入し、減胎します。使用量としては塩化カリウム液20ml(3mg)を1胎につき、妊娠11週以下であれば0.5〜1.0ml、妊娠21週近辺であれば2〜3mlを使用。尚、この塩化カリウムという薬剤は、カリウムの足りない患者さんへの治療薬として使用されているもので、施術上有り得ないことですが、万が一全量が母体に注入されたとしても、母体には、何ら影響を与えるものではありません。
また、施術は、残す胎児に影響を与えないように、細心の注意を払って施行しております。

当院での手術は、ほとんどが他施設からの紹介患者さんですが、1986年以来、既に千数百人の方に手術を施行しております。初期に行った数例は別として、施術と関係のある問題例はほぼ皆無に近いと言っても良いでしょう。

先ず、腹壁を通してガイド付きの超音波機器下にて残すべき胎児を決め、その胎児の胎嚢や絨毛(胎盤)に針が絶対に刺入しないようにしながら、減胎する児の心臓にKCl液を0.5〜1.0ml、胎児が大きい場合は2〜3mlを注入。一胎を減胎する度に、残す胎児の心拍を確認しつつ手術を続行すること。時として一卵性多胎であるが故に、一胎を減胎したと同時に残すべき胎児にKClが及び、減胎してしまうことも有り得るので未然に個々の胎児の状況の把握を忘れてはなりません。針はNo23G以下の細い針を使用し、子宮及び関係する組織への損傷を少なくすること。間違っても、腸管を刺入することは、絶対あってはならないのです。

時として目的とする胎児に刺入できず、刺し直すことがあるかも知れないが、3回以上繰り返すようであるならば、施術するその医師には手術する資格は無い。時として、心臓に刺入できず胎児の胸腔や腹腔に刺入する場合があるが、その時は注入するKClの量を多くし、心拍の停止を確認すること。

目的とする胎児の心拍の停止と、残すべき胎児の心拍を確認し手術終了とするが、時として減胎した胎児の心拍が再開することがあります。そのため、術後2〜3時間してから心拍の状態を再確認、もし心拍の再開が見られた場合には、速やかに再手術を行うこと。時間が経つと心拍の再開した胎児のオリエンテーションが不可能になってしまいます。

尚、5胎以上の胎児を2胎又は1胎に減胎する場合には、2回に分けて施術すること。1回目は妊娠10週で残す胎児の数より1胎多く残すようにし、2回目では妊娠11週にて胎児診断をしてから残すべき胎児を決め、残りの一胎を減胎するようにします。
術後、流産に至ることは、上記の手技であれば先ず有り得ないと思います。成功率50%というような施設の話を耳にするが、そのような率は手技の稚拙さから来るもので、少なくとも90%以上の成功率がなければ施行してはならないものと考えます。

5.施術は妊娠11週とする
当初は胎児数を減らすことだけを考え妊娠8〜10週で手術をしていましたが、下記の如く妊娠11週を適期と考え現在は手術をしています。妊娠週数の早い時期(妊娠5〜8週)に、経腟的に胎嚢を吸引したり、穿刺したりする方法で減胎することが報告されていますが、腹壁からの手技に比し、細菌感染が起き易いと同時に、このような早期に手術すると、自然減胎されてしまう胎児を残し、妊娠継続可能な胎児を減胎してしまうことが起り得るため、絶対にこのような早期でそれも経腟的方法で手術をすべきではありません。

施術を基本的に妊娠11週中とする根拠は、①一般的に妊娠11週未満においては自然流産する可能性が高いこと②妊娠11週未満で多胎妊娠例の一部の胎児が子宮内胎児死亡となる可能性が高いこと③妊娠12週以後の人工妊娠中絶には死産届が必要とされること④初期の超音波による胎児診断の検査時期が妊娠11〜12週の頃であること⑤胎児の識別の容易性や、子宮内胎児死亡となり異物化する胎児が余り大きくならない時期の双方を鑑みた時の週数が妊娠11週頃であること。
尚、事情により妊娠12週以後となる場合は、人工妊娠中絶の可能週数である妊娠22週未満であれば可として対応しています。

6.基本として子宮体部(上方)に位置する児を手術し、子宮口近く(下方)に位置する児を残すその理由
子宮口近くの児が子宮内胎児死亡すると①感染の可能性が高くなるものと考えられる②異物化した胎児を排出しようとする作用が働き、流産する可能性が考えられる③子宮体部に比し、死亡した胎児は吸収されにくいことが考えられる。
しかし、あくまでも可能性であり、データ上での見解ではありません。但し、施術せざるを得ない児が子宮口近くである場合は、上記の点を充分考慮され、手術を受けて下さることをお願い致します。

7.多胎中に一卵性(一絨毛膜性)双胎や品胎が含まれる場合の留意点
一卵性双胎の場合には、妊娠中に双胎間輸血症候群(TTTS)を起こす可能性が大きいため、総じて一卵性多胎部分の胎児全てに対し施術することをお勧めします。しかし、一卵性双胎において2胎を残すことを欲する場合は、これ等の危険性を充分ご承知の上で一卵性双胎を残すこと。又、一卵性三胎や四胎に関しては、それ等全てを残すことは危険性大なるが故、お勧めできません。
もしも、一卵性双胎や品胎中の一児に施術したとすると、薬液が外の胎児にも及び、一卵性双胎や品胎の全てが胎児死亡に至ってしまうこととなります。しかし、減胎手術の一環として、一卵性双胎の一胎の臍帯にクリップをして、その胎児を子宮内胎児死亡に至らせ吸収させるという方法が考えられ、現実に行われているとのことですが、その真偽は定かならずです。

7.術後感染に関して

完全な消毒下での施術ではありますが、過去1例のみ施術後に感染を起こし流産された方がありました。

8.胎児診断例に関して
最近、多胎妊娠例の胎児診断後の問い合わせが多くなって来ました。最初は如何なるものかと思案しましたが、「減胎できなければ全部中絶します」という決断をお聞きし、手術を始めた時の「一人でも多く助ける」の初心に戻り、患者さんの意向を尊重し、以下の手順で対応させて頂くこととなりました。

①超音波検査にて異常を確認、その児が残す胎児数外であれば、その児を手術対象とする。
②超音波検査にてNT等の値から染色体異常が疑われ、その児が残す胎児数に含まれている場合、妊娠15週にて羊水染色体検査を施行(この場合は全部の胎児に行う)、異常が無ければ出産へ。異常があり手術の希望があれば施行する。
③NIPT(新型出生前診断)の結果、染色体異常妊娠が疑われた場合で一部救胎手術を希望される場合は、その時点で来院してください。妊娠14〜15週の時点にて当方で疑う染色体検査をFISH法を用い全部の胎児に施行(朝羊水を採取すれば夕刻には結果が出る)、その結果をみて手術。尚、同時に全部の染色体検査を施行しておくことを望みます(3週間程で結果が出る)。

もし、地元の病院で以上のことをした場合、医師からの胎児の位置を確実に伝えて頂けない場合(紹介状(−))、当方で再確認せざるを得なくなります。

9.術後感染に関して
完全な消毒下での施術ではありますが、過去 1 例のみ施術後に感染を起こし流産された方がありました。

10.術後の流・早産に関して
普通の妊娠・出産において、流・早産等で生児を得られない方は、 1〜2 割、又、妊娠反応だけ 陽性のままで流産する例(Chemical Pregnancy)まで入れると 3〜4 割あるとされています。その内のほとんどの流産は、妊娠 7〜8 週頃までに起きています。もし、妊娠 10 週前に一部救胎手術を受けた場合、自然流産するかも知れない胎児を残してしまうことにもなりかねませんので、現在は前述した如く妊娠11週での施術としています。

当院における一般的妊娠例の妊娠12週以後における流・早産にて生児を得られなかったケースは、 1〜2 %です。それに比し、最近の一部救胎手術後の流・早産にて生児を得られなかったケースは、 3〜4 %に見られています。これは、残す児が2胎のケースが多く、一般的には双胎妊娠の流・早産で生児を得られない率が単胎妊娠例に比し高いことが反映されているものと考えられます。いずれにしても現在では、一部救胎手術だけが原因で流・早産し、生児を得られていないケースは6.で示したようなケースは稀で、余り問題としなくて良いのではないかと考えています。

11.術後の経過

特に問題のない方は、4、5日の安静後、普通の生活に戻って下さい。
術後、一時的に不正出血や手術した胎嚢からの羊水の漏出が少しある方がおられますが、続かなければ心配ありません。
切迫流産状態(不正出血、腹痛等)のまま来院され、減胎手術を希望される方には状況を見て施術しますが、お帰りになった後も流産予防の対応を受けて下さい。
2人以上胎児を残される方は、流早産予防のために、子宮頚管縫縮術(シロッカー氏手術)を受けられることも一策でしょう。いずれにしても担当の先生とご相談下さい。

12.術後の先天異常(奇形も含む)、染色体異常に関して
これ等の問題と、手術とは一切関係ありません。もし、手術によって残され生まれたお子さんに何か問題があったとしても、一般の出産における頻度と同じように起こりうるべくして起こったこととしてお考え下さい。

13.減胎された胎児に関して
減胎された胎児は母体に吸収されて、また元のお母さんの体に戻ります。また、その何万分の幾つかは、残された胎児の体の一部となるでしょう。何人かで走って来た命のリレーが、減胎手術によって1人か2、3人にまとめられ、そのようにして新しい命のバトンタッチがなされて行くものと私達は考えています。

14.残された子どもに関して
前項で述べさせて頂いたように、減胎された胎児もまた望まれて妊娠された子どもです。ですから、生を受けた子どもと共に、減胎された子どもも一緒に成長しておられるものと思いつつ、全ての命に感謝し、お子さんの成長を見守ってあげて下さい。
そして、出来ましたら、生を受けた子どもさんが成長し 20 歳頃になったら、「手術をおこなったこと。去って行った兄弟姉妹のお陰で、お前(達)がいること。去って行った兄弟姉妹の分まで自分の命を大切にし、頑張って生きて欲しい」とお話される機会を作って頂けることを願っております。

この事実を、真摯に受け止めることの出来るようなお子さんにぜひお育て頂くことを、 お願い致します。

2018年4月1日